長引く咳、咳喘息について
最近、長引く咳で受診される患者さんが増えています。
今回は長引く咳の原因である咳喘息についてブログでまとめました。
少し長いですが、長引く咳でお困りの方や、過去に経験がある方はご覧いただければ幸いです。
咳は出現してからの期間により下記のように分類されます。
- 3週間未満: 急性咳嗽
- 3~8週間: 遷延性咳嗽
- 8週~: 慢性咳嗽
皆様が経験する、いわゆる「風邪」の咳は一般的には数日~3週間以内に改善することが多いと思います。
3週間を超える、遷延性咳嗽、慢性咳嗽が「長引く咳」と考えられています。
長引く咳の原因として、最も多いのが咳喘息です。
他には、逆流性食道炎や後鼻漏(鼻汁がのどに垂れ込む)、アトピー性咳嗽などがあります。複数の要因が合わさっていることもあります。
【咳喘息の定義】
咳喘息は、気管支喘息の亜型であり、「喘鳴や呼吸困難を伴わず、呼吸機能がほぼ正常で、気道過敏性が軽度亢進し、気管支拡張薬が有効な疾患」と定義されています。
喘鳴とは呼吸をするときに「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」など音がすることをいいます。
【咳喘息の原因】
カビ、ダニ、ハウスダスト、ペットの毛、花粉などのアレルゲンが原因となることや、かぜなどのウィルス感染がきっかけで発症することがります。
アレルギーに反応する「IgE」という抗体が、咳喘息の患者さんの60%前後に認められるといわれています。
ただ、IgEの値や、アレルゲンの数は典型的な気管支喘息と比較し低い傾向にあります。
IgEの値が正常な咳喘息の患者さんもいらっしゃいます。
【咳の特徴】
- 女性の方が頻度、強度が高い傾向にあります。
- 咳は通常は睡眠により軽減しますが、夜間·早朝にも認めることが特徴です(ただ、日中の方が咳の絶対数は多く、日中のみ咳を認めることもあります)。
- 冷気、会話、風邪などが誘因となります。
- 秋に増悪しやすく、ダニが原因といわれています。夏に増殖したダニの死骸や糞が、秋になると空気中に舞いやすくなります。
【咳喘息診断の、診療のために当院で行う検査】
1.胸部レントゲン検査
咳喘息では、胸部レントゲンに異常は認めません。他の肺の病気を否定をるために胸部レントゲン検査を行います。
2. 肺機能検査
典型的な喘息の患者さんは1秒量が低下することがありますが、咳喘息の患者さんは正常なことが多いです。
フローボリューム 曲線の後半が、しばしば「下に凸」になります、
1秒量: 最大限息を吸った後、できるだけ一気に吐いたときの、最初の1秒間に吐きだされる空気の流量のことです。
フローボリューム曲線: 最大まで吸い込んだ空気を勢いよく吐き出した際の「空気の速さ(フロー)」と「吐き出した空気の量(ボリューム)」の関係を示したグラフ
3. 血液検査
・総IgE値を測定し、アレルゲンの存在が考えられれば、特異的IgG値を測定しアレルゲンを特定をします。
・白血球の1つである好酸球数を測定します。治療の反応性や重症度の目安になります。
・その他、肝機能、腎機能など、よく血液検査でルーチンで調べる項目も測定します。
膠原病など他疾患で喘息様症状を併発することがありますので、これらを除外することや、内服薬を安全に継続できるかを調べるためです。
その他、当院では行えませんが呼気一酸化窒素濃度の検査などがあります。
【治療】
ステロイド吸入と長時間間作用型β2刺激薬(気管支拡張薬)の吸入をまず行います。
これで改善乏しければ、ロイコトリエン拮抗薬の内服や長時間作用型抗コリン薬の吸入を追加します。
治りが悪いは場合は、逆流性食道炎や、アレルギー性鼻炎による後鼻漏(鼻汁がのどに流れること)による咳も併発している可能性も考えます。
難治例の場合は、P2X3 受容体拮抗薬(ゲーファピキサント:リフヌア®️)の内服薬が有効な場合もあります。
ただ、薬価が高いことや、味覚障害が起こる可能性があることが問題点です。
P2X3受容体拮抗薬: 気道にある咳に関与する感覚神経にP2X3受容体があり、これを遮断することで、咳が抑制されます。
症状増悪時には短時間間作用型β2刺激薬(気管支拡張薬)の吸入を屯用で使用します。
吸入で咳が誘発されたり、夜寝れない場合などは、ステロイドの内服を短期間を併用することもあります。
ステロイドの内服は長期間使用すると、免疫力が落ちたり様々な副作用が問題になることがありますので注意が必要です。
その他に、アレルゲンの回避や禁煙が重要となります。特に禁煙は痰症状の軽減に有効です。
【治療期間】
多くの患者さんが、吸入で咳が速やかに軽減しますが、治療中止で再燃のリスクもあります。特に長期治療が必要な因子は、「咳が増悪することが多い」、「喫煙者」、「アレルゲンに持続的に暴露している」などです。
いつまで治療を続けるべきかという明確な基準はありません。
2~3ヶ月ごとに評価し、無症状またはほぼ無症状であれば、ステロイドの吸入以外の薬剤を1種類ずつ減らしていきます。最小限のステロイドの吸入とし、無症状であれば中止を考慮します。ただ、再燃したら、すぐに治療開始が必要です。
当院では、できれば最低半年~1年くらいの治療をお勧めしております。症状が軽快した後は、吸入することや通院が面倒になるとは思います。
しかし、症状再燃や典型的な喘息への移行を抑えるためにも治療継続が重要です。
毎年同じ時期などに咳が続くなど、季節性が明らかであれば、その時期のみの治療でも良い場合があります。ただ、通念性の症状に移行することもあるので注意が必要です。
【予後】
治療をしっかり行わない咳喘息の患者さんは30~40%が典型的な喘息に移行しますが、ステロイド吸入を診断時より使用することで、そのリスクは低下します。
原因となるアレルゲンがある方や、肺機能検査で1秒量(空気を1秒間で吐ける量)が低い方は、典型的の喘息への移行リスクがあり注意が必要です。
【まとめ】
・3週間以上つづく咳を長引く咳といいます(遷延性咳嗽、8週以上で慢性咳嗽)。
・長引く咳で最も多いのは咳喘息です。咳喘息と典型的な喘息の違いは、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)がないことです。
・咳喘息はしっかり治療しないと、典型的な喘息に移行することがあり注意が必要です。
・しっかり治療を行うことで、治療を中止できることが多い病気です。